土砂降りの中の登頂
夜中、壁中穴と隙間だらけの掘っ立て小屋で寝ていると、外で雨音が激しくなってきた音で目が覚める。
どうやら天気予報通り今日は雨の中の登山となりそうだ。
4時にゴソゴソと動き出し、不要な寝袋やマットは小屋にデポし、レインウェアに着替えて出発の準備をする。
ここから山頂まではおよそ標高差800m、約2時間半くらいか。
7時から7時半くらいには山頂につけるだろうか。
心配なのは長い帰路の途中にある沢の渡渉。
昨日は涸れ沢で問題なかったが、この雨で増水した場合にどの程度の水量になるのか、無事に沢を渡る事ができるのか…多少不安はあるものの、まぁこの時点で心配してもどうにもならないので、まずは山頂目指して出発する。
小屋からしばらくは、いくつか沢を渡りながら標高を上げていく。
ヘッドライトで照らすものの、なかなかルートファインディングは難しい..が、何度も来ているキーは迷いながらもちゃんとルートを見つけて登っていく。


1時間半ほど歩いたところで、その先から始まる急登を前にして休憩と朝食とする事に。
土砂降りの中、滑る地面や岩、藪にやられて、出発して間もないものの皆だいぶ疲れている。
するとカウがおもむろにバックパックの中から取り出したのは…Bossの缶コーヒー!

嬉しすぎる….!!! 温かくはないものの、コーヒーの旨味と甘さが身体中に染み渡る..!
これで気持ちも身体も超回復。
ありがとう、カウ!
ここからの鬼の直登を前にして最高の補給になりました。
山頂までの最後の急登は、相変わらずの直登トレイル。
雨でぬかるんで滑る上に、竹やぶが行く手を阻み体力だけでなくメンタルも中々にしんどい。
一旦雨脚が弱くなった際に、着ていたビニールのポンチョを脱いで、その場にデポしようとしているカウ。
いやいや待て待て、この先また降ってくるかもしれないし、標高上がって身体濡らしたら危ないから持って行きなさいと諭してポンチョをカウのバックパックに押し込む。
案の定、30分もするとまた土砂降りに…。


そして小屋を出発してから約3時間、苔むす老木の森を抜けた先に..ベトナム国旗とともに山頂の看板を発見!


山頂は標高2881mあるものの、森の中で眺望は特になし…。
3人で喜びを分かち合ったのち、そそくさと帰路につく..。
なんせここから途中で登り返しも含めて、約17~8km、標高差で2000m近く降る長ーい道のり。
その上、終盤の沢の増水も怖いし、暗くなったら渡渉も困難になりそう。
3人ともひたすら黙々と歩き続ける…。



歩けど歩けど中々着かない..その上、とにかくぬかるんで道が滑るので歩きづらくてしょうがない…。
みんな無言になってゆく。
カウがボソッと呟く。
「もうナムカンホータオはいいかな….。」
キーは、
「二度と1泊2日でナムカンホータオのガイドは受けない..!」と相槌をうつ。
同感、2日で余裕かと思ってたけど、歩きづらい道だからなのか、天候のせいもあるけど、これは中々にしんどいわ…。
「仮に明日、他のお客さんから1000ドルでナムカンホー2日間で登頂ガイドを頼まれたらどーする?」と聞いたら、
「絶対断る。金の問題じゃない。絶対やだ..。」だって。確かにね…笑。


途中、多くの地元の村人達とすれ違う。
皆多くの荷物を担いでいて、10代くらいの女の子や60代くらいの方までいる。
聞くと、タイ人のハイカーグループのために先に今夜の宿泊地に荷物や食材を運んでいるらしい。
若い女の子ポーターにしんどくないのか?とキーが訊くと、だって稼げるんだもんと笑顔で答えていた。
やがて、軽装のタイ人ハイカー達とすれ違う。
全部で10人くらいか、皆バラバラになっていて、それぞれガイドが付いているよう。
が、先頭と最後尾はおそらく2時間くらい離れているし、最後尾の子に関しては小屋の到着は夜10時を過ぎてしまうんではないだろうか….。
とてもシンドそうに「小屋まで後どのくらい?」とタイ人ハイカーの一人に聞かれるが、答えに困った..。
「多分君のペースだとあと5時間以上はかかるのでは…」
と正直に伝えると、付き添いの現地ガイドがキーに余計な事は言わないでほしいとモン語で言ってくる..。
無事彼ら彼女らが小屋にたどり着けるよう願って、こちらも大急ぎで降り続ける。
だんだんと暗くなってきた..が、まだ大きな沢の渡渉が控えている。

このあと、腿下くらいまで増水した沢を何とか渡りきり、無事に下山口に到着…
体が冷え切っていたところ、登山口近くの民家兼商店のお姉さんが手招きして土間に入れてくれて、焚き火を起こしてくれた…。
暖かい….。
ジュースを購入し、お礼を言ってお別れする。
そう、まだまだこれからスクーター2ケツで2時間ドライブの旅が待っているのだ。
しかもまた雨脚が強くなってきた…..。
正直この後はもうレインウェアも用を為さず、身体の芯から冷え切ってシンドすぎるバイク旅でした..。
途中で寄った食堂で急いで乾いた下着に着替えて、温かい晩御飯にありつく。
生き返った….。
やがてキーの運営する宿に到着…ようやくゆっくり休める..。
キーとカウの二人とは、きっとまた再会しようと約束してお別れ..。
ナムカンホータオ山…ベトナムの登山で考えれば、かなりマニアックな山なのだろう。
決して山頂からの素晴らしい眺望があるわけではないのだけど、苔むした森、ちょっと冒険的な登山道、モン族の人々の山の暮らしが垣間見え、とても記憶に残るよい山旅になりました。
何より、地元モン族のガイド、キーとカウと色々な話ができたのが印象深い。
自分たちの暮らしのこと、これからの村の生活の変化、日本とベトナムの山や暮らしの違い..。
モン族の若者達が、現代の文明の波がどんどんと自分たちの伝統的な昔からの暮らしの中に入ってくる変化のまっただ中で、どのような事を考え、どんな事を大切にしたいと思って生きているのか…。
きっといつかまたムーカンチャイを訪れ、キーやカウと酒を酌み交わしながら話をしたいと思う。